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2010.06.03 (木)

「 普天間迷走8カ月『鳩山首相』は自身の学びを語れ 」

『週刊新潮』 2010年6月3日号
日本ルネッサンス 第413

5月23日、沖縄を再訪した鳩山由紀夫首相は仲井眞弘多(ひろかず)知事と対面し、立ったまま会話を始めた。「日米間のギリギリの交渉」について報告する首相に知事が声をかけた。

「おかけいただけませんか? どうぞ」

着席を促され、首相は「失礼かと……。よろしいですか? 座って恐縮です」と答えて、ようやく着席した(5月24日付『産経新聞』)。

首相たる者が47都道府県の一知事になんという恐懼恐縮振りか。1986年の初当選以来約四半世紀も政治家をしていて、沖縄海兵隊の抑止力を今年5月になってようやく学び知ったという前代未聞の首相だけに、自らが巻き起こした混乱の渦の中で、恐懼恐縮せざるをえないのは、仕方がないのだろう。

首相は知事の前で用意してきた文書を読み上げた。「辺野古の付近にお願いをせざるを得ない」「混乱を招いたことに、心からおわび」するとしたが、その中で首相は随分とおかしなことを言っている。「(前政権が)米国と交渉さえしてこなかった負担軽減と危険性の除去を(自分は)前進させる」との主張である。

自民党政権は本当に、沖縄の負担軽減や危険性の除去について「交渉さえしてこなかった」のか。06年5月1日の日米合意文書を見てみよう。これは前年10月に合意した「日米同盟、未来のための変革と再編」に基づいて、在日米軍と自衛隊の再編の具体策を詰めたもので、通称ロードマップと呼ばれる。そこには、ざっと以下のように書かれている。

約8,000名の第3海兵機動展開部隊の要員とその家族約9,000名は、2014年までに沖縄からグアムに移転する。対象となる部隊はキャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧及び牧港補給地区から移転する。

結果、「嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる」とロードマップに明記されたように、広大な土地が返ってくる。全面返還されるのは、キャンプ桑江の0.675平方キロ、普天間飛行場の4.806平方キロ、牧港補給地区の2.737平方キロ、那覇港湾施設の0.559平方キロ、陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファームの0.16平方キロだ。6.425平方キロのキャンプ瑞慶覧も部分返還される。

首相の発言は事実に反する

また普天間移転に伴って、緊急時の使用には福岡県の築城基地と宮崎県の新田原基地が充てられる。

元航空自衛隊員で安全保障問題に詳しい潮匡人氏が語った。

「普天間移転で沖縄県への負担はかなり軽減される予定で、すでに実現済みの部分もあります。海兵隊員8,000人が家族と共にいなくなり、土地が沖縄に返され、築城や新田原の利用にみられるように、県外に移る機能もあります。そこを見ないで普天間の移転先にだけとらわれ、計画全体を止めるのは愚かです」

普天間移転イコール沖縄県への負担軽減であることに、まず、留意せよと、潮氏は強調する。その軽減が十分か否かの議論は当然あるだろう。だが、日米間で沖縄の負担軽減が全く交渉さえされてこなかったという首相の発言は事実に反する。

また首相は、自民党案とほぼ同じ案に戻った点を問われ、24日、「辺野古だが、現行案ではない。住民の安全はもちろん、環境面に徹底的に配慮する新しい形」だと反論した。

だが、96年の普天間返還合意は住民の安全を守り騒音を減らすことが原点だった。環境保護のために何年間にもわたる環境アセスメントも行われた。06年のロードマップにも安全性、騒音、環境への配慮は明記されている。まるで自分だけが住民の安全と環境に配慮しているかのような首相の言い方はおかしいだろう。

普天間問題で認識すべきは、沖縄への負担軽減だけでなく、日米安保体制による日本全体への負担軽減の実態である。防衛費で見てみよう。

日本の防衛費は現在約4・7兆円。米国は50兆円、中国は15兆円と見てよいだろう。中国が年々2桁の伸び率で軍事費を増やしてきたのに対し、過去8年間、日本は防衛費を年平均で2%ずつ減らしてきた。この少額予算は、日米安保条約で日本の安全が担保されるという前提があって初めて可能である。

兵力を見ると、陸上兵力で世界最大規模は中国軍で160万人、米国と韓国がほぼ同じ54万人、日本は韓国は無論のこと、トルコの40万人やミャンマーの38万人よりも少ない13万8,000人だ。

海上兵力はどうか。米国が排水量602万トンに上る軍艦を有し、中国が132万トンに迫るのに対し、日本は34・5万トンである。

航空兵力は米国が作戦機3,890機、中国は1,950機、日本は430機。ちなみに韓国と台湾は各々530機保有する。

国益を損ねた責任

無論、兵力の単純比較だけで物事は測れない。作戦機が同数であっても、その性能と軍の練度が問われるのは言うまでもない。それでも、軍事において量は極めて重要である。日本の軍事力は米中は勿論、韓国や台湾のような周辺諸国に較べてさえも小規模である。それで済んできたのは、前述のように日米安保条約のもたらす抑止力ゆえだ。

4月7日から22日まで、中国は最新鋭のキロ級潜水艦2隻を含む10隻の艦隊を組んで東シナ海で激しい訓練を行い、沖縄本島と宮古島の間を航行してみせた。沖縄を含む南西諸島は鹿児島から長径1,000キロの広大な海に散在する。その守りに配備の陸上自衛隊は2,100人、対して米軍の地上部隊は1万8,000人だ。日本の不十分な兵力を、米軍が補っているのだ。日米安保体制への過小評価は許されないだろう。

21世紀の世界は、21年にわたる異常な軍拡で力をつけた中国の軍事的脅威に直面している。中国の喫緊の目標は台湾を自らの影響圏に組み入れることだ。中国は、台湾海峡に、第4世代戦闘機400機を配備済みだ。中国製の第4世代多目的戦闘・攻撃機も280機、短・中距離弾道ミサイル1,500基も同じく配備済みだ。加えて中国製の第5世代戦闘機は早ければ2017年には配備されると、米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」の主任研究員、リチャード・フィッシャー氏が発表した。圧倒的軍事力で抵抗を諦めさせて、台湾を併合する意図だという。

日本は、このような国の隣に位置しているのだ。中国の直近の主戦場は台湾海峡を含む東シナ海と西太平洋である。だからこそ、同海域に中国への抑止力としての軍事力の整備が必要である。普天間の代替飛行場が沖縄でなくてはならないゆえんだ。

首相が現行案の普天間に戻ったのは、抑止を学んだゆえと語った。国民を翻弄し、明らかに国益を損ねた首相は、ここに至った経緯を、国民全員に明確に説明する責任がある。

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